ホーム 一覧 実績の紹介 医療トレーニング映像の学習効果と精神的負荷の統計的分析

医療トレーニング映像の学習効果と精神的負荷の統計的分析

本事例は、医療従事者向けのトレーニングにおいて、特に医療現場で実際に発生する事象を模した映像教材が、受講者の「学習効果」と「精神的負荷」にどのように影響するかを統計的に分析したものです。

医療教育の質向上と学習者のウェルビーイングの両立は重要な課題であり、どのトレーニングモジュールが最も効果的であり、かつ不必要な精神的負担をかけないかを評価することは、より実践的で人道的な教育プログラムを設計するために不可欠です。

Dr.データサイエンスは、この複雑な関係性を定量的に評価し、データに基づいた教育コンテンツの改善提案を行いました。

分析背景・目的

お客様は、医療従事者向けの新しいトレーニングモジュールを導入するにあたり、各モジュールが受講者の「学習効果」(知識習得や手技理解)と「精神的負荷」(ストレスや負担感)にどのような影響を与えるかを客観的に評価したいと考えていました。

これは、単に知識を詰め込むだけでなく、受講者が実践的なスキルを習得しつつも、過度な精神的ストレスに晒されないようなバランスの取れたトレーニングを提供することが目的であり、この分析を通じて、各トレーニングモジュールの「学習効果」と「精神的負荷」がどの程度であるか、両者の間にどのような関係性があるのか、特定のトレーニングモジュールが他のモジュールと比較して統計的に有意な「学習効果」または「精神的負荷」の差を持つか、そして受講者の「臨床経験」がこれらの評価項目に影響を与える偏りがあるかを明らかにすることが求められました。

データと変数

本事例の分析に用いられたデータは、複数の医療トレーニングモジュールを視聴した医療従事者または医療系学生からの評価回答(合計2,000回答)です。

    • 学習効果:各トレーニングモジュールから得られた知識の習得度や手技の理解度を、5点尺度で評価したスコア。
    • 精神的負荷:各トレーニングモジュール視聴後に感じた精神的なストレスや負担感を、5点尺度で評価したスコア。
    • 臨床経験:回答者の臨床経験の有無を示すカテゴリ変数(「経験なし」「経験あり」「未回答・不明」)。

分析手法

事例では、医療トレーニングモジュールの評価に関する以下の分析を実施しました。

  1. 事前分析
    • 回答者の「臨床経験」属性の分布を集計しました。
    • 各トレーニングモジュールIDにおける「臨床経験」の偏りの有無を統計学的に確認するため、カイ二乗検定(有意水準0.05)を実施しました。
    • 主要評価項目である「学習効果」と「精神的負荷」の得点分布が正規分布に従うかを確認するため、シャピロー・ウィルク検定(有意水準0.05)を実施し、分析手法の適切性を判断しました。
  2. 「臨床経験」を考慮しない分析
    • 「学習効果」と「精神的負荷」の間に統計的に有意な関係があるかを評価するため、スピアマンの順位相関係数を用いた相関分析を実施しました。これは、両変数が非正規分布であったため、ノンパラメトリック手法を選択しました。
    • 各トレーニングモジュールID間で「学習効果」の得点に統計的に有意な差があるかを判定するため、クラスカル・ウォリス検定(ノンパラメトリック分散分析)を実施しました。
    • クラスカル・ウォリス検定で有意差が認められた場合、具体的にどのトレーニングモジュールIDの組み合わせ間に有意差があるかを特定するため、スティール・ドゥワス検定を用いた多重比較分析を実施しました。

主な結果の概要と臨床的考察

分析の結果、重要な知見として、まず回答者の「臨床経験」において、各トレーニングモジュールID間での統計的な偏りは認められず、また、「学習効果」および「精神的負荷」の得点分布がいずれも正規性を示さなかったため、ノンパラメトリック手法が適切であると判断されました。

次に、「学習効果」と「精神的負荷」の間には統計的に有意な正の相関関係が認められ、学習効果が高いトレーニングモジュールほど、受講者が感じる精神的負荷も高まる傾向があることが示唆されました。この臨床的な考察としては、より高度な手技や倫理的に複雑な症例を扱う映像は、学習効果が高い反面、集中力や感情的な対応を要するため、精神的な負担も大きくなる可能性が考えられます。

さらに、各トレーニングモジュールID間において「学習効果」の得点に統計的に有意な差があることが判明し、特定のモジュールが高い学習効果を持つことを示しています。多重比較(スティール・ドゥワス検定)により、学習効果に関して有意差のある具体的なモジュールIDの組み合わせが複数特定されました。

この結果は、教育プログラムを設計する上で、高い学習効果を持つモジュールを特定し、それを優先的に活用することの重要性を示唆するとともに、精神的負荷とのバランスを考慮し、効果的かつ受講者に配慮した教材選定や組み合わせが可能となることを示しています。

Dr.データサイエンスの貢献

本事例において、Dr.データサイエンスは、医療トレーニングの効果を多角的に評価するためのデータ分析を提供しました。その主要な貢献として、「学習効果」と「精神的負荷」が非正規分布であるという事前分析の結果に基づき、カイ二乗検定、スピアマンの順位相関係数、クラスカル・ウォリス検定、スティール・ドゥワス検定といったノンパラメトリック検定を適切に選択・適用し、データの特性に合致した信頼性の高い分析結果を導き出しました。

また、「学習効果」と「精神的負荷」という二つの重要な評価項目間の相関関係を定量的に示し、学習効果の高さが精神的負荷の増加につながるというトレードオフを明確にしました。この知見は、医療教育者がトレーニングコンテンツを設計する上で、効果と負担のバランスを考慮するための重要な示唆となります。

さらに、各トレーニングモジュール間の「学習効果」の有意差を特定し、効果の高いモジュールを具体的に示すことで、お客様がより実践的で効果的な教育プログラムを構築するためのデータに基づいた意思決定を支援し、医療教育の質の向上と、受講者の学習体験の最適化に貢献しました。

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