ホーム 一覧 実績の紹介 症状プロファイルと生理学的指標に基づくクラスター分析・因子分析

症状プロファイルと生理学的指標に基づくクラスター分析・因子分析

本事例は、特定の循環器疾患を持つ患者群における疾患の多様性を深く理解するために、クラスター分析と因子分析という多変量解析手法を適用したものです。慢性疾患、特に循環器疾患においては、診断名が同じであっても、患者ごとに症状プロファイルや生理学的指標、治療への反応が大きく異なることがしばしばあります。

このような患者の多様性を類型化し、潜在的なサブタイプを特定することは、個別化医療の推進や、より効果的な治療戦略の策定に不可欠です。Dr.データサイエンスは、患者の複雑な臨床データを解析し、新たな視点から患者分類を可能にしました。

なお、秘密保持契約に基づき、具体的な数値や詳細な医療的背景は一切開示しておりません。

分析背景・目的

お客様は、特定の循環器疾患の患者群において、一見似た症状を呈していても、その症状の組み合わせや検査値のパターンには潜在的な多様性が存在すると考えていました。この多様性を統計的に明確なサブタイプとして分類し、それぞれのサブタイプが持つ特徴を理解することが求められており、これは疾患の進行予測、治療反応性の層別化、さらには将来的な臨床試験のデザイン最適化に繋がる重要な知見を得ることを目的としていました。

この分析を通じて、症状プロファイルと生理学的指標に基づいて患者群がどのような明確なサブタイプに分類されるか、これらのサブタイプを特徴づける潜在的な症状や生理学的特徴の軸は何か、特定の既往歴の有無が患者の分類や特徴にどのような影響を与えるか、そして得られたサブタイプが個別化された治療戦略の策定にどのように役立つかを明らかにすることが求められました。

データと変数

本事例の分析に用いられたデータは、特定の循環器疾患を持つ患者の臨床記録および検査データです。

    • 症状スコア:患者が訴える複数の主要症状(例:息切れの程度、浮腫の有無、胸痛の頻度、疲労感など)を複合的に評価した定量スコア(5点尺度)。
    • 生体指標スコア:各患者の複数の生理学的検査値やバイタルサイン(例:BNP値、心拍数、駆出率、血圧など)を複合的に評価した定量スコア(5点尺度)。
    • 既往歴の有無:患者の主要な既往歴や合併症の有無を示すカテゴリ変数(例:「既往歴なし」「既往歴あり」「不明」)。

分析手法

本事例では、特定の循環器疾患患者のサブタイプ分類に関する以下の分析を実施しました。

  1. 事前分析
    • 対象患者の「既往歴の有無」属性の分布を集計し、患者群の背景を把握しました。
    • 主要評価項目である「症状スコア」と「生体指標スコア」の得点分布が正規分布に従うかを確認するため、シャピロ・ウィルク検定(有意水準0.05)を実施し、分析手法の適切性を判断しました。
  2. クラスター分析
    • 2,423件の患者データに対し、患者を「症状スコア」と「生体指標スコア」の観点から分類するため、非階層式のk-means法を用いたクラスター分析を採用しました。
    • クラスター数の決定にはエルボー法を採用し、クラスター内平方和の推移が収束する地点を最適なクラスター数として5と設定しました。
    • 各クラスターの特性を「症状スコア」と「生体指標スコア」の組み合わせで詳細に解釈し、特定の症状パターンや生理学的特徴を持つ患者群を特定しました。
  3. 因子分析
    • クラスター分析で得られた分類をさらに定量的に評価し、潜在的な評価軸を抽出するために、症状スコアと生体指標スコアを構成する個別項目(例:息切れ、胸痛、BNP値、心拍数など)に対して因子分析を実施しました。
    • 因子数の決定は、カイザー・ガットマン基準(固有値1以上)や累積寄与率の増加率を考慮して行いました。
    • 特定された因子を臨床的な意味合いで解釈し、因子得点プロット上で、例えば「症状重症度」や「心機能低下度」といった潜在的な軸における各患者の位置付けを可視化しました。これにより、複合的な特徴を持つ患者サブタイプをより明確に特定しました。
    • 患者の「既往歴の有無」による特性の違いを考慮し、「既往歴なし」「既往歴あり」「不明」の各グループに対し、個別にクラスター分析および因子分析を実施しました。

主な結果の概要と臨床的考察

分析の結果、特定の循環器疾患を持つ患者は、「症状スコア」と「生体指標スコア」の組み合わせに基づき、5つの異なる特性を持つ明確なサブタイプ(クラスター)に分類されました。例えば、症状が重く生体指標も悪化している重症タイプ、症状は軽度だが生体指標に異常が見られる潜在リスクタイプ、症状も生体指標も安定している安定タイプなどが特定されました。これらのクラスターを詳細に分析することで、各サブタイプが持つ臨床的特徴や治療介入の必要性が明らかになりました。

さらに、因子分析により、患者の症状と生理学的指標の背後にある「疾患重症度」や「代償メカニズム」といった複数の潜在的な因子が抽出されました。因子得点のプロットからは、例えば「症状が軽微に見えても、実は生理学的指標が悪化している」といった、これまで見過ごされがちであった患者群を定量的に特定することが可能になりました。これは、画一的な診断や治療では対応しきれない患者の多様性を浮き彫りにし、より個別化された治療戦略の策定に向けた重要な根拠となります。

また、「既往歴の有無」によるサブグループ分析では、既往歴を持つ患者と持たない患者で、症状の現れ方や生体指標のパターンに異なる特徴があることが示唆され、各層に特化した診療ガイドラインや治療アプローチの必要性が浮き彫りになりました。

これらの知見は、循環器疾患の病態理解を深め、患者層ごとの適切なリスク評価と治療選択を可能にするだけでなく、将来の臨床試験において、より均質な患者群を対象とすることで、治療効果の検出力を高めることにも貢献します。

Dr.データサイエンスの貢献

本事例において、Dr.データサイエンスは、複雑な循環器疾患患者の臨床データから、疾患の多様性を明らかにするための高度なデータ分析を提供しました。その主要な貢献は以下の通りです。

  1. 多変量解析による患者層別化
    • 単純な記述統計や単純な比較に留まらず、クラスター分析と因子分析という高度な多変量解析手法を導入することで、患者を「症状」と「生体指標」という複数の側面から類型化し、その背後にある潜在的な構造を解明しました。
    • これにより、これまで経験則に頼りがちであった患者分類に、客観的かつデータ駆動型のアプローチを提供しました。
  2. 個別化医療への貢献
    • 因子分析を通じて、各患者が潜在的な因子軸上でどのように位置付けられるかを明確にし、特定の複合的な特徴を持つ患者サブタイプを定量的に特定しました。
    • この結果は、お客様が患者一人ひとりの特性に合わせた個別化された治療戦略を策定するための明確な根拠を提供し、個別化医療の推進に大きく貢献します。
  3. 臨床的示唆の深化
    • 「既往歴の有無」といった重要な背景因子を考慮したサブグループ分析は、患者背景に応じた症状発現のパターンや生理学的反応の違いを浮き彫りにし、より詳細かつ実践的な臨床的示唆を提供しました。

Dr.データサイエンスは、統計的専門知識と医療分野への深い理解を融合させることで、データに基づいた患者管理と治療戦略の最適化に貢献し、循環器疾患領域における医療の質の向上に寄与しました。

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